「努力って、報われるもんじゃないわよ」と、洗濯物をほし終わった母が私に囁き、ニヤリとして部屋をあとにした。このとき私は高校3年生。一心不乱に勉強している娘にかける言葉か…？しばらく、あ然としてしまった。
だいぶ年数が経ってから、言葉の真意を母に尋ねた。「報われなくても、努力はしなきゃいけないのよ」という、母にしては明瞭な回答だった。そもそも母が私の質問に答えるのが、めずらしかったのね。だって、母は常に「自分で考えな」という姿勢だったんだもの。
私たちはよくふたりで長い時間、居間でお茶をすすりながら過ごしていたけど、しゃべるのは専ら私。母の方は、ただニヤニヤするだけ。そんな母は私にとって謎だらけだった。生前に聞きはぐった疑問がいくつあるやら…。「いつも答えてくれないのに、何であの時は答えてくれたの？」とかね。
「報われない努力」も人間しなきゃいけないから、努力が報われた時って喜びも大きい。毎日のウクレレ&ギター練習は「努力」と思っていないわよ。それでも「左手がスムーズに動くようになってきた」なんて、自分の成長に気づいた瞬間にはガッツポーズとってる。
私のじゃなくても、努力は報われて欲しいものだわ。
